千葉県八街(やちまた)市の路上で2021年6月28日夕方、下校中の小学生の列に大型トラックが突っ込み、児童5人が巻き込まれ、2人が亡くなり、事故後、運転手からはアルコールが検出されたという痛ましい事件がありました。

 

これまでも何度も、飲酒運転による死亡事故が報道され、法改正もされてきましたが、いまだに根絶にはいたっていません。

 

今回のような飲酒運転により犯罪については、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」、通称「自動車運転死傷行為処罰法」により規定されています。

 

今回は、自動車運転死傷行為処罰法の制定の経緯や内容について読み解いていきます。

 

1.自動車運転死傷行為処罰法の制定の経緯

  危険な状態で自動車を運転した結果、人を負傷される、死亡させる犯罪を、「危険運転致死傷罪」といいます。

  危険運転致死傷罪は、元々は刑法により規定されていました。

  しかし、刑法で規定されていた危険運転致死傷罪は、特に危険な運転行為に限定されていたため、重い結果をもたらしたにも関わらず、規定された行為に該当しないため、相当な刑罰を科すことができない状況でした。

  そのような状況を打開するため、刑法から、危険運転致死傷罪を抜き出し、新たに制定されたのが、自動車運転死傷行為処罰法です。

  

 

2.危険運転に該当する行為

 ⑴ 行為類型

   危険運転に該当する行為については、自動車運転死傷行為処罰法の2条と3条に規定されています。

第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。

 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為

二 (以下略)

第三条 

1 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。

2 (以下略)

  2条の飲酒運転と3条の飲酒運転の違いは、2条ではアルコールや薬物によって酩酊や精神錯乱に陥っているのに対し、3条では、最初は軽い酩酊状態であったものが、最終的に運転困難な状態になれば成立するものです。

  簡単にいえば、どれぐらい酔っていたかで区別しているものと言えます。

 ⑵ 刑罰

   飲酒運転で人を負傷させた場合、初めから酷い酩酊状態だったのであれば、15年以下の懲役、軽い酩酊状態であったのであれば、12年以下の懲役です。

   人を死亡させたのであれば、初めから酷い酩酊状態だった場合は、1年以上の懲役、軽い酩酊状態であった場合は、15年以下の懲役となります。

   1年以上の懲役とは、最低でも1年以上であり、上限がないことなります。

   ※もっとも、日本の有期懲役は、最長でも30年なので、それより長くなることはありません。

 

3.あおり運転の規制

  昨今は、あおり運転も問題となっていますが、自動車運転死傷行為処罰法では、人を負傷または死亡させた場合しか処罰することができませんでした。

第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。

(略)

 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為

 高速自動車国道(略)又は自動車専用道路(略)において自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(略)をさせる行為

(略)

  しかし、身体的な被害が及ばない限り、あおり運転を処罰することができないとなれば、被害者は実際に自分が怪我をするまであおり運転を我慢しなければならないことになります。

  そこで、道路交通法が改正され、あおり運転をおこなった場合、具体的な怪我や死亡といった状況が発生しなくとも、運転者を処罰することができるようになりました。

第百十七条の二の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(略)

十一 他の車両等の通行を妨害する目的で、次のいずれかに掲げる行為であつて、当該他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法によるものをした者

 第十七条(通行区分)第四項の規定の違反となるような行為

 第二十四条(急ブレーキの禁止)の規定に違反する行為

 第二十六条(車間距離の保持)の規定の違反となるような行為

 第二十六条の二(進路の変更の禁止)第二項の規定の違反となるような行為

 第二十八条(追越しの方法)第一項又は第四項の規定の違反となるような行為

 第五十二条(車両等の灯火)第二項の規定に違反する行為

 第五十四条(警音器の使用等)第二項の規定に違反する行為

 第七十条(安全運転の義務)の規定に違反する行為

 第七十五条の四(最低速度)の規定の違反となるような行為

 第七十五条の八(停車及び駐車の禁止)第一項の規定の違反となるような行為

(略)

  このようにあおり運転に対する規制は整備されつつありますが、加害者に対して適切な処罰を与えるためにも、証拠が必要になってきます。

  このような点からは、ドライブレコーダーは非常に有効なので、日頃、車を運転する方は是非ともドライブレコーダーを設置した方が良いでしょう。

4.雑感

  このように、自動車運転の事故を減らすために、法は整備されてきてはいますが、やはり、法律は事後的に作用するものです。

  法律によって刑罰を定めることで、ある程度の予防にはなるかもしれませんが、最終的には、運転者の個々人の行動に委ねられているのが現状です。

  悲痛な被害者や、気の緩みからの過ちで犯罪者となる人を減らすためにも、人間が車をコントロールする時代は早く終わって欲しい、と思います。

  もちろん、車を運転することが好きな方がいることやモータースポーツが人気であることは否定できません。

  このように、運転自体を娯楽として楽しむことと、移動手段として車を使用する場合とを区別して、移動する際の運転は、コンピューターに任せることができれば、被害は減るかと思います。

  自動運転により、新たな法律の問題は出てくるかと思いますが、一刻も早く自動運転が実用化されることを願っています。