【目次】

1.なぜ人はソーシャルゲームにハマってしまうのか?

2.プレイしただけ「保有物」が増える

3.自分の努力には価値を感じやすい

4.質より量によって、好きになる

5.人も、もう進むしかないと感じてしまう

6.「やっていなかったら」から逃げる

7.未知を恐れる

8.沼にハマった時の対処法



1.なぜ人はソーシャルゲームにハマってしまうのか?

 

ソーシャルゲームは、スマホの普及が進んだ2010年頃から利用者が急増し、2018年時点で日本人の4割がソーシャルゲームを楽しむレベルにまで定着しました。

 

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1日にソーシャルゲームをプレイする時間は1回7分を平均5回、合計35分間だそうです。

一般的なサラリーマンが自由に使える時間は1日8時間程度に限られます。

 

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今はこの可処分時間をゲームのみでなく、SNS利用、動画の視聴などで取り合っている状態です。

そのためソーシャルゲームは、1回の所要時間を短くして、隙間時間にプレイできるようにしてあります。

 

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社会学者ロジェ・カイヨワは、ゲームは以下の4つの要素の組み合わせでできていると主張しています。

 

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そして、ソーシャルゲームの魅力について、「社会関係の中で、自身が介入でき、それによる高度なフィードバックがあるエンターテインメント」といわれることがあります。

 

ロジェ・カイヨワの4項目に従えば、ソーシャルゲームでは以下4つのフィードバックが得られると言えます。

 

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2.プレイしただけ「保有物」が増える

 

さらにソーシャルゲームならではの様々なフィードバックがあります。

 

キャラクターの成長、参加チームの勝利、ゲーム上のステージや地位、自分が身につけたプレイのテクニックです。

これらはすべてが自分にとって大切な「保有物」となります。

こういった「保有物を手放したくないと思う意識」がソーシャルゲームにハマる第一の理由です。

 

人は何かを保有した時に、それに高い価値を感じて手放したくないと感じます。

この心理現象を、行動経済学では「保有効果」と呼びます。

 

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この法則を検証するために、ダニエル・カーネマンは以下のような「マグカップの実験」を行いました。

 

まず実験参加者の学生をABの2グループに分け、Aに大学のロゴマーク入りマグカップをプレゼントします。

その後、すぐ、Aグループに「いくらなら、Bグループにマグカップを売るか?」と尋ね、Bグループには「いくらなら、Aグループからマグカップを買うか?」と尋ねました。

 

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通常のマグカップは6ドルで販売している物でしたが、結果の平均はAグループ:7.12ドルで売る」Bグループ:2.87ドルで買う」というものでした。

 

保有者は、これを手に入れていない人の評価と比べて、2倍以上高い価値をつけました。

同じものならば、すでに持っていても、そうでなくても価値は同じ価値だと考えるハズです。

 

この「保有効果」と関連が強いのが「損失回避」です。

人は、得のようなプラスの刺激よりも、損をするなどマイナスの刺激に対して敏感に反応し、無意識に損失を避けようとします。

 

保有効果は、損失回避によって生まれる心理的バイアスとも考えられます。

自分の持ち物を失うことを人間の脳は損失ととらえます。

そして、失った時の大きな不満や悲しみを避けようとします。

これが、保有するモノの価値を極端に高く感じることにつながります。

 

保有効果は形のある物体だけではなく、地位、利権、権力など無形のモノにも働きます。

例えば、高い地位にある人がそれを失うまいと必死になる時、周りの人は「なぜ、それほどまでに地位にこだわるのか?」と冷静に見るでしょう。

ところが、本人は自分の地位による保有効果に囚われているのです。

 

また保有効果は、「自分のものにした」ことで生まれます。

ただ手元にあるだけでは、保有効果は生まれません

 

3.自分の努力には価値を感じやすい

 

フィードバックによる保有効果に次いで2番目にハマる理由は、「自分が関与する対象を高く評価する気持ち」です。

 

自分が作った物は、たとえ同じ物が店に売っているとしても、その販売価格より高い価値を感じます。

しかし、本人以外には違いが分からないかもしれません。

このように、人間は、自分が努力して犠牲を払った結果や、達成した目標を高く評価したくなるものなのです。

 

デューク大学のダン・アリエリー教授は、この心理を「IKEA効果」と呼びました。

 

スウェーデン発祥で世界最大の家具量販店「IKEA」の家具は、部品がバラバラになった状態で販売されています。

購入したら、自分で組み立てなければなりません。

完成に手間をかけるこのプロセスを経ると、家具に対する愛着が生まれ、高い価値を感じるのです。

 

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ハーバードビジネススクールとデューク大学では、これを検証する実験を行いました。

実験参加者は、折り紙でツルカエルを作ります。

次に、自分や他の参加者が作った折り紙に値段をつけます。

そして、自分と他の参加者の折り紙との間にどれほどの価値の差が生まれるのかを測定しました。

 

参加者たちは自分が作った折り紙に20セント(約20円)以上の価格をつけました。

一方、他の参加者が作った折り紙には5セント(約5円)ほどの価格しかつけませんでした。

さらに、折り紙の専門家が負った折り紙についても入札を行ったところ、参加者は自分が折った折り紙と同じ程度の価格をつけました。

 

つまり、参加者らは自分が折った折り紙を、専門家によるものと同じくらい高い価値があると考えたのです。

 

自分が作ったものや、努力して生んだものに愛着を感じるIKEA効果によるものです。

 

かの有名な発明家トーマス・エジソンでさえ、IKEA効果のバイアスから逃れられなかったと言われています。

 

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1900年代の後半、エジソンは直流電気を発明しました。

その後にセルビアからエジソンの電灯会社に入社してきたニコラ・ステラが交流電気を発明します。

 

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エジソンはこの発明を否定し、交流電気の危険性を広めるなどにより、自らの発明が優位であることにこだわったのです。

これは、IKEA効果による影響だと考えられます。

 

現在では、エジソンが愛着を持った直流電気ではなく、交流電気が主流となっています。

 

 

この他にも、IKEA効果が現実に影響を及ぼした事例があります。

1980年代の米国で「ホットケーキミックス」が、IKEA効果によって売上げを大きく伸ばしたのです。

 

 

発売当初のホットケーキミックスは、粉に水を混ぜて焼くだけで簡単に作れる商品でしたがあまり売れませんでした。

ある時、この商品から卵と牛乳の成分を抜き、購入者が自分で卵と牛乳を加えて作るように変えました。

すると売行きが大きく伸びたのです。

 

ユーザーの手間を省くのではなく、むしろ手間をかけさせることで、手作りの楽しみや自分で作った満足感を与えることができたためです。

これもまた、IKEA効果の影響です。

 

4.質より量によって、好きになる

 

ソーシャルゲームにハマる3番目の理由は「何度も見るものを好きになる心理」です。

 

繰り返しプレイすれば、その画面を何度も見ることになります。

 

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これによって「ザイアンス効果」の影響を受けることになります。

 

これは心理学者ロバート・ザイアンスの研究から生まれたもので、「単純接触効果」とも呼ばれています。

 

「ある対象への単なる接触の繰り返しによって、その対象への好意度が高まる効果」です。

これは特別に好まれるべき対象にのみ起きるわけではありません。

度合いの差はあれ、ただ見続けるだけで、どんなものでも好きになっていくのです

 

ザイアンスは、以下のような実験によりこの効果を検証しました。

 

特に意味の無い単語(単語)」「中国語の漢字のようなシンボル(漢字)」をランダムに異なる回数(1回~25回)提示します。

そして提示する回数によって、それぞれの単語や漢字に対する好感度がどのように変化するか測定しました。

その結果、提示回数が増えるほどに好意度が増加することが証明されました

 

ザイアンスは単語や漢字のみでなく、顔写真などでも実験を行いました。

 

後には多くの学者が、無意味なつづりの単語、意味のある文字、音、絵、写真、無意味な図形、匂い、味覚など様々な刺激を用いて実験を行いました。

これらすべてにおいてザイアンス効果が働くことが確かめられています。

 

これは、例えば、テレビCMでも活用されており、何回も同じCMを見せることで好感度を上げるのです。

 

ソーシャルゲームのプレイヤーも、プレイする時間中、スタートページ、様々なシーン、登場人物やキャラクターなど映像を繰り返し見続けます。

そしてザイアンス効果の影響を受けます。

少しずつ、自分がプレイしているゲームに対する好意や愛着が高まっていくのです。

 

5.人も、もう進むしかないと感じてしまう

 

ソーシャルゲームにハマる4番目の理由は、「費やしたことがもったいなくてやめられない心理」です。

ソーシャルゲームを長く続けると、プレイしてきた時間、労力やお金を使います。

 

これらは、他の有意義なことに使えていたかもしれません。

 

これらソーシャルゲームで費やした時間、金、労力など、失った「コスト」は戻ってきません。

しかし、これらを無駄にしたくないという意識が働きます。

これを「サンクコスト効果」と言います。

サンクコストとは、回収が不可能になった投資費用です。

 

多くの人はサンクコストに引きずられて正しい判断ができません。

サンクコストが無駄になるのが嫌で、後には引けないと感じます。

結果的にはさらに損が広がってしまいます。

 

この法則に関しては、現実社会で実際に起こった事例があります。

 

世界初の超音速旅客機「コンコルド」の英仏共同開発プロジェクトです。

 

この飛行機は、デザインの美しさ、群を抜いたスピードなどによって100機を超える注文が入るほど人気でした。

 

しかし、プロジェクトは難航し、開発を続けても利益を回収できないどころか、「今すぐプロジェクトを中止して、購入予定企業に違約金と賠償金を支払ったほうがはるかに安く済む」ほどの大赤字であることが発覚しました。

それにもかかわらず、プロジェクトは進み続けました。

 

その理由は「サンクコスト効果」です。

それまで投資した予算や時間、労力などがすべて、水の泡となってしまうのが嫌だったのです。

プロジェクトを止めることができず、大赤字を生む結果となりました。

4000億円の開発費に対して、数兆円の赤字だったと言われています

 

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サンクコスト効果は、大きなプロジェクトにおいてのみ表れるものではありません。

食べ放題の店で無理に食べてしまうのはサンクコスト効果の影響です。

 

6.「やっていなかったら」から逃げる

 

ソーシャルゲームにハマる5番目の理由は、「もしやっていなかったら、という仮定を避け続ける心理」です。

行動経済学には「機会費用の軽視」という法則があります。

機会費用とは、ある選択を行うことで失った(選ばなかった)ものの価値や、もし選択していたら得ていたはずの利益のことです。

ある選択をする時、必ず選ばれなかった選択肢があります。

行動経済学では、こうした機会費用を軽視されがちだということが証明されています。

 

ソーシャルゲームの場合でも、ゲームに費やした時間でできたはずの他の事柄は、価値がないものとしてスルーされてしまうのです。

これはソーシャルゲームに費やした時間、お金、労力などのサンクコストを、いつまでも気にするのとまったく逆の状態です。

こうして機会費用が軽視された結果、「もしソーシャルゲームをしていなければ」と反省することもなく、ひたすらやり続けることになるのです。

 

7.未知を恐れる

 

それに加えて「現状維持バイアス」の影響により、現状を変えるのは簡単ではありません。

 

これは未知なもの、未体験のものを受け入れず、現状のままでいたいとする心理的バイアスです。

変化を起こせば必ずリスクが伴いますが、現状を続ければ、未知のリスクにさらされることはありません。

こういった状況では、損失回避の心理が働きます。

変化による損失を避けようとして、現状を維持するのです。

 

この法則は、日常的な行動にも影響します。

お気に入りのファッションブランドを買い続けること、「行きつけ」の飲食店に通うことも、現状維持バイアスです。

現状を変えたくないという心理が働いているのです。

 

この現状維持バイアスが、機会費用の軽視と結びつくと、ソーシャルゲームにハマります。

ソーシャルゲームのプレイを繰り返し、他の有意義なことに時間を割く発想がなくなります。

そして、プレイし続ける現状を維持しようとします。

 

8.沼にハマった時の対処法

 

なぜ人がソーシャルゲームにハマるか、その理由は一つではなく、複合的にからみあって心理的影響を及ぼしています。

意に反してハマってしまわないための対策があります。

心理学者のトム・スタッフォードが主張している「保有効果への対処法」です。

自分が保有しているものに関して「もし今、これを所有していないとしたら、手に入れるためにいくら支払うだろうか」と自分に問いかけるのです。

これにより、偏らない目で行動を選択できます。