結婚式場を営むブライダル会社が、新型コロナウイルスの感染拡大を理由に式を挙げなかった新郎新婦を相手取り、解約料として約209万円の損害賠償をするために東京地裁に提訴しました。
遅かれ早かれ、多かれ少なかれ、コロナの影響により社会が一変したわけですから、こういうことは起きますよねー。
訴えられた新郎新婦側は、コロナ禍が、天災などのときに契約が消滅する「不可抗力」にあたるとして支払いを拒んでいるそうです。
新郎新婦側は、それだけではなく、支払い済みの申込金20万円の返還をもとめて提訴する意向です。
感染拡大によって、全国の式場も、新郎新婦も、開催か変更かで悩みましたよね。
人生の一大イベントですからね。
新郎新婦にとっては、そんな簡単にキャンセルなんてできないし、でも結婚式がきっかけで感染が拡大したら、と思うと、本当に悩まし判断だと思います。
そんなこんなで、キャンセルという決断をした結果、新たな問題が出てきます。
それが、キャンセル料です。
通常、新郎新婦側の都合で、結婚式が中止となれば、キャンセル料が発生しますが、今回は事情が一味違います。
コロナの感染拡大を危惧してのキャンセルです。
契約には、「不可抗力」でのキャンセルの場合は、キャンセル料は発生しない、と定めれらているのが、一般的です。
そこで、問題になるのが、コロナ理由の結婚式キャンセルは「不可抗力」なのか、ということです。
【目次】
1.緊急事態宣言で挙式予定見直し
2.式場側「一律の無償対応では経営破綻に追い込まれる」
3.新郎新婦側「コロナ前に思い描いていた式は挙げられない」
4.ブライダル業界、コロナ経済損失の試算は1兆円
1.緊急事態宣言で挙式予定見直し
キャンセル料を請求したブライダル会社(本社=東京都)は23区内などで、複数の式場を運営しています。
そして、6月24日に東京地裁で1回目の裁判が行われました。
ブライダル会社の主張によれば、会社は新郎新婦(関東在住)との間で、2020年6月6日予定の結婚式について、同年2月6日に契約を締結したが、東京を含む地域を対象とする緊急事態宣言が出された4月7日になると、コロナの影響による延期・中止の相談を受けたそうです。
ちょうど、コロナに対する危険意識が高まっていた時期ですよね。
この頃はいろんなイベントが中止になっていましたし、結婚式を延期するカップルを沢山いました。
そんな中、ブライダル会社は3つの選択肢を、新郎新婦側に提示しました。
(1)予定通りの開催
(2)延期費用支払いのうえで延期
(3)解約料支払いのうえで解約。
延期の場合、2020年9月末までなら、見積金額の全額を延期費用として支払う。この費用は、延期日程の挙式・披露宴にあてられるため、追加負担はない、ということだったそうです。
ブライダル会社側も、一定程度、社会情勢を考慮していたんでしょうね。
そして、中止の場合は、規約に基づく「解約料」(のちに示されたのは約57万円)がかかる、とのことでした。
これに対し、新郎新婦は、コロナの影響で式が挙げられないことは規約記載の「不可抗力」にあたるため、解約料の支払いは必要ないと主張しました。
ブライダル会社は、新郎新婦と何度か話し合いをしたそうですが、結婚式が予定されていた6月6日に新郎新婦が会場に現れなかったことから、「当日キャンセル」とみなし、見積金の全額にあたる解約料209万310円(支払い済みの「申込金」をのぞく)を請求することにしました。
この間の話合いは、どんな内容だったのか、気になりますね。
キャンセル料の問題は一旦おくとして、新郎新婦は、予定されていた6月6日に結婚式を挙げる意向はないと、表明していたんでしょうか。
6月6日に結婚式を挙げる予定はないことを表明していたのであれば、当日キャンセル扱いってのは、ちょっと疑問ですね。
2.式場側「一律の無償対応では経営破綻に追い込まれる」
ブライダル会社としては、コロナ理由の無期限の延期や中止のもとめに、一律に無償で対応してしまえば、経営破綻に追い込まれてしまうため、このような対応は「やむを得ないもの」だったと主張するでしょう。
確かに、無償でキャンセルを受け付けると、ブライダル会社側の収入はなくなり、それまで費やしてきた時間や労働は無駄になって、かなりピンチですよね。
ただ、その当時の世間の潮流からすると、キャンセル料を、通常通りに請求するってのは、なかなか意見が分かれるところではありますね。
そこで、ブライダル会社側の主張の後押しとなったのが、法務省の見解です。
ブライダル会社は、法務省の見解などをもとに、コロナの影響による結婚式キャンセルの場合は、不可抗力にはあたらないと主張しているんです。
法律上、「不可抗力」ってのは、制度ごとに解釈は様々ではありますが、たとえば、地震とか戦争とか、レベル感でいえば、結構高いモノが要求されるんですよね。
その点も踏まえて、法務省は見解を出したんだと思います。
しかし、今回のコロナは、ただの病気というわけではないですからね。
世界レベルで、生活を一変させたウイルス被害ですから、これが、果たして「不可抗力」にあたるか。
ここが、意見の分かれ目ですね。
3.新郎新婦側「コロナ前に思い描いていた式は挙げられない」
新郎新婦の代理人をつとめる弁護士は「式場からもとめられた(予定期日での)開催・延期・(解約料を支払っての)中止の条件にはいずれも納得できず、不可抗力によって契約は消滅した。また、新郎新婦は事前に式場側に確定的なキャンセルの連絡をしている」として、解約料支払いの必要はないとしています。
コロナの感染拡大とともに緊急事態宣言が発出され、当初の合意時に想定していたような結婚式の開催は社会通念上不可能のため、自己都合の解約にはならないとの主張です。
新郎新婦側の言い分も、確かに理解はできます。
ただ、基準として、当初の合意時に想定していたような結婚式って、どのような内容なんでしょうか。
少しでも、想定とズレれば、それでキャンセルが認めらる、ってことではないんでしょうが・・・
どの範囲で、想定していたことが、社会通念上不可能になれば、キャンセルできると解釈できるのか、難しいですね。
こういう時の基準として、契約当事者の合理的な意思を推察することになるでしょうが、コロナを影響として裁判にまで発展しているわけですから、なかなか両者が納得するような、合理的意思を導き出すのは、困難そうです。
4.ブライダル業界、コロナ経済損失の試算は1兆円
式場などに実施したアンケートでは、2020年度のブライダル業界の経済損失は約9500億円(前年度比約32%)にのぼり、現在では回復基調にあるものの、それでもコロナ流行後の損失は合計で約1兆円と考えられるそうです。
ものすごい額だな、といった印象はありますが、ただ単純にこの数字だけ見て評価するのは、正確ではないような気がします。
他の業界も比較しないといけないですよね。
コロナの被害を被っているのは、ブライダル会社だけではないはずで、ブライダル会社以上に損失を被っている業界もあるはずです。
トラブルも目立ったそうです。
2020年度のコロナに関する消費生活相談のうち、「結婚式」は3992件で、4月に件数がピーク(1368件)に達した。キャンセル料請求や延期に関するものが多かったそうです。
この数字についても、精密なリサーチが必要ですね。
ブライダル業界の被害は、社会的に大きいといえるのか。
そして、コロナを理由とする契約破棄は「不可抗力」にあたるのか。
社会と裁判所の判断には注目ですね。